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大分地方裁判所中津支部 昭和43年(ワ)161号 判決

原告

辛島昭次

被告

田中和良

ほか一名

主文

被告等は各自原告に対し金六、〇〇〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四三年七月一日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(当事者の主張)

原告訴訟代理人は請求の原因として

(一)  被告田中は昭和四三年二月一八日午後八時五〇分頃被告会社所有にかかる普通乗用自動車(山五わ一八六号)を運転して国道一〇号線を別府方面より門司方面に向けて進行し、宇佐市大字辛島三八番地附近にさしかかつた際、前車との車間距離を十分にとらず、かつ前方をよく注視していなかつた過失により進行前方左側に原告がその所有にかかる普通貨物自動車を運転停止しているのを前車がみとめ、これを避けるためハンドルを右にきつて進行したにもかゝわらずこれに気付かずそのまゝ漫然進行して右自動車に追突し、原告に対し頭部打撲傷、頭頂骨骨折の傷害を負わせた。

(二)  原告は直ちに宇佐市大字中原三四七番地佐藤病院に運びこまれたが、三日間は意識不明で、脳内出血が原因で耳より出血し鞭うち症をも伴つており、爾後九六日間右病院に入院し、昭和四三年五月二四日より同年八月二〇日までは毎日あるいは隔日佐藤医師の往診をうけながら自宅療養を続けたが、その間時々意識混濁、尿失禁、けいれんの発作等におそわれたので同年八月二一日より大分市県立病院に入院し現在に至つている。

治癒の見込みは全くなく、将来も生業に従事しうる見込みはない。

(三)  原告は大学卒業後右事故当時まで菓子の製造販売業を手広く営み、右事故当時においては年収一、〇〇〇、〇〇〇円を上廻る収入を得ていた健康な三九歳の男子であるが、右事故で倒れて以来営業を継続することができなくなり菓子製造工場を閉鎖し、一切の資産を投げ出して債権者集団に一任することを余儀なくされ、妻子を抱え全く生計の方途を失うに至つた。

(四)  政府の「自動車損害賠償保障事業損害査定基準」(昭和四二年一一月一日改訂)によれば原告は右事故のため負傷しなければ、右事故の時点より少くとも二四年間は右菓子製造販売業を営むことができ、前記主張の通りその間年間一、〇〇〇、〇〇〇円を上廻る純益を得ることができた筈であるがこの得べかりし利益の右事故当時における現価はホフマン方式(ホフマン係数一五・五〇〇)により算出すると金一五、五〇〇、〇〇〇円となる。

(五)  又以上(一)ないし(四)記載の各事情を総合すると右事故のため原告の蒙つた精神的苦痛に対しては金三、〇〇〇、〇〇〇円の慰藉料が相当である。

(六)  よつて原告は、被告田中に対しては民法第七〇九条により、被告会社に対しては自動車損害賠償保障法第三条により、それぞれ(四)の金一五、五〇〇、〇〇〇円の内金五、〇〇〇、〇〇〇円と、(五)の金三、〇〇〇、〇〇〇円の内金一、〇〇〇、〇〇〇円につき右事故の後である昭和四三年七月一日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金と共にその支払を求める次第である。

と述べた。

被告等訴訟代理人は請求原因に対する答弁として

同(一)記載の事実は認める。但し被害者の傷害の程度は不知、被告田中に原告主張の如き過失があつたことは否認する。

同(二)(三)(四)記載の事実は不知。

同(五)記載の事実は否認する。

同(六)記載の事実は争う。

と述べ、抗弁として

(一)  被告会社は自動車の販売、貸自動車業を営む者であるが昭和四三年二月一七日従業員阿部清に対し第三者に転貸しない約定の下に本件自動車を貸し出したところ、右阿部がほしいまゝに被告田中に転貸し、右被告が本件事故を惹起したものであつて被告会社が自動車損害賠償保障法第三条の「自己のため自動車を運行の用に供する者」に該当しないことは明白である。

(二)  被告田中は本件事故の被害弁償の一部として現在までに合計金五一五、七八六円(内金一四〇、〇六一円は治療費に充当)を原告に支払い、かつ原告は自動車損害賠償責任保険金一、七五〇、〇〇〇円を受領している。

と述べ、原告訴訟代理人は右抗弁について

(一)  否認する。被告田中は右阿部清の親友であり、他の友人六人と共に本件自動車ともう一台の自動車(所有者は右阿部清)に分乗し、右被告と右阿部とが右二台の自動車をかわるがわる運転してドライブに赴く途中本件事故を惹起したものであり、いわゆる無断転貸とは異なり未だ本件自動車は右阿部の直接占有を離脱しておらず、したがつて被告会社も運行支配を失つていないから賃貸人としての運行供用者責任を免れない。

(二)  認める。但し自動車損害賠償責任保険金の内金一〇〇、〇〇〇円は治療費として受領し治療費に充当された。

と述べた。

〔証拠関係略〕

理由

一、被告田中が昭和四三年二月一八日午後八時五〇分頃被告会社所有にかかる普通乗用自動車(山五わ一八六号)を運転して国道一〇号線を別府方面より門司方面に向けて進行し宇佐市大字辛島三八番地附近にさしかゝつた際前方左側に停車していた原告所有にかかる普通貨物自動車に追突したことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、右事故は被告田中が前車との車間距離をわずか三米位しかとらず漫然進行した過失により、前方に原告所有自動車の停車しているのに直前まで気付かず前車が衝突を避けるべくハンドルを右にきつた際はじめてこれに気付き、あわてゝ急ブレーキを踏むと共にハンドルを右に切つたが間に合わず惹起したものであること、〔証拠略〕によると、右事故の際原告は原告所有自動車に乗つていたため右事故により頭部打撲傷頭頂骨骨折、鞭うち障害等の傷害を受け直ちに森若病院に運びこまれ翌一九日より佐藤病院に転院して同年五月二三日まで入院したこと、その後八月二〇日までは毎日あるいは隔日佐藤敏胤医師の往診を受けたが同月二一日より同年一二月四日まで再び大分市県立病院に入院し退院後も引きつゞき時々右県立病院及び佐藤病院の治療を受け現在に至つていること、受傷当時原告は前記各傷害の結果瞳孔反射をほとんど失い、軽度の眼球震盪右後頭部の自発痛圧痛に悩まされたが現在に至るも瞳孔反射は全くなく、雨天曇天の時にはひどい頭痛耳鳴りに悩まされていること、加うるに昭和四三年三月一六日頃より外傷性てんかんの発作(発作がはじまると五分ないし一〇分間位全身がけいれんし、その後三、四〇分間位意識喪失の状態になる。)に月二、三回位おそわれるようになり佐藤病院でもらう薬の服用をつゞけている間はこうした発作は起きないが服用をやめれば発作が起る状態にあり、又こうしたてんかんの発作のない時でも物を取ろうとすれば手足がけいれんするいわゆる四肢の緊張性しんせんに悩まされていること、及びこうした障害のため原告は従来一五年間営んできた菓子の製造販売業に従事することができなくなつたが、治癒の見込みは全くないため将来も生業に従事しうる見込みはないことを、それぞれ認めることができ、右各認定に反する証拠はない。(なお本件事故が被告田中の前方不注視によるものであるとの主張については認めるに足りる証拠はない。)

二、右事故の際被告田中が運転していた自動車(以下単に本件自動車と言う。)が被告会社の所有であつたことは前記認定の通りであるが〔証拠略〕によれば、被告会社はドライブクラブを営んでおり、昭和四三年二月一七日被告会社徳山営業所はその従業員である訴外阿部清に本件自動車を賃貸期間二四時間、運行区間徳山より小倉まで、乗車人員二名賃料金四、四五一円(通常は金八、九〇二円であるが訴外阿部が従業員のため半額)の約定で貸与したところ、同人が被告田中他六名と共に本件自動車を同人所有の自動車とに分乗して大分にドライブに来て、その帰途本件事故が発生したこと、当初右訴外阿部が本件自動車を運転し、被告田中が右訴外人の自動車を運転して徳山市を出発したが出発後間もなく被告田中が崖に接触する事故を起したので右訴外人と被告田中が交替し、爾後被告田中が訴外国沢某とかわるがわる本件自動車を運転し、右訴外阿部が他の一台を運転するようになつたこと、本件自動車貸渡契約書(乙第二号証の一ないし四)裏面には不動文字で約款として「借受人は借り受けた車両を他に転貸又は運転せしめてはならない。」(5項)「借受人は運行に際し当社の発行する貸渡証を携帯しなければならない。」(7項)「借受人は運行の用に供する場合乗車定員を越えて乗車せしめてはならない。」(6項)「借受人が交通及び道路交通法の関係法規及び公の秩序又は善良なる風俗に反する行為があつた場合及び本約款第5項、7項及び9項に違反した場合貸渡人は借受人に対し何時でも当該貸渡契約を解除することができる。」旨、注意事項として「事故が発生した時は法令に定められた処置をとると共にすみやかに貸渡人に連絡し帰着後当社の定めた書類に必要事項を記入して提出すべく第三者と貸渡人に不利益となるような協定はしないこと。」なる旨それぞれ記載されていること、及び貸渡に際しては一般に口頭でもこれらの事項について借受人に注意しており本件の場合も被告田中は上司から同様の注意を受けていることを、それぞれ認めることができ右各認定に反する証拠はない。

そこで以上の事実関係の下において自動車損害賠償保障法三条の運行供用者として本件事故につき被告会社に民事責任があるかどうかを判断する。

まず以上の事実関係の下において本件事故を起したのが被告田中ではなく借受人たる訴外阿部清であると仮定した場合被告会社に責任があるかどうかを按ずるに、そもそもドライブクラブは自動車の賃貸を本来の業務とする者であるから、借受人の運行はドライブクラブにとつてまさにその所有車両の通常の利用形態であり、ドライブクラブの機関としての運行と同視すべき一面を有することは明らかであり、本件の場合賃貸期間はわずか二四時間であつて、しかも前記認定の如き約款、注意事項に照せばその間訴外阿部清の本件自動車の運行について被告会社は通常賃貸借に比してかなり強い支配を及ぼしていることが認められるので右訴外人の本件自動車運転中も依然として運行支配を保有していると解する他なく又前記認定の通り営利事業として相当高額の賃料を徴している点に徴し右訴外人の本件自動車運転について被告会社に運行利益があることも否定できない。

これに反し借受人の借受自動車の運行はもつぱら借受人の意思によつて決定されるのであつてドライブクラブはその運行について支配力を及ぼしえないのであるからドライブクラブは運行供用者には該らないとの見解をとる学説判例が少なからず散見されるけれども、自動車損害賠償保障法第三条の立法趣旨に徴するとき同条のいわゆる運行支配は危険責任の理念にしたがい、同条のいわゆる運行利益は報償責任の理念にしたがい、それぞれ解釈されるべきであり、果して然らばドライブクラブは借受人の借受自動車運行中も右自動車について間接占有を有し、その運行に関し、「どこへ運行されるか」の面については支配を及ぼしえないけれども「安全に運行されるか」の面については依然として支配を失つていない(前記各約款、注意事項参照)以上ドライブクラブについて運行支配の存在を否定するのは相当でない。

これを結果的にみてもドライブクラブの利用者はおゝむね無資力であるから利用者の起した事故についてドライブクラブの責任を否定するときは被害者の救済の道を事実上杜絶させる結果となることは明らかであり、他方ドライブクラブは仮に利用者の事故について責任を負わされるとしても積立金もしくは任意保険の制度を利用すれば企業の在立を危くされるような結果を回避することは十分可能であるから交通事故が重大な社会問題となつており、とくにその被害者の救済が叫ばれている現状において営利のために自動車という、社会的に有用ではあるがきわめて危険な物の賃貸を業としているドライブクラブの責任を否定することは国民の法感情に適合する所以ではないと言わねばならない。

以上のような理由によつて当裁判所は仮に借受人たる右訴外人が本件の如き事実関係の下において本件の如き事故を起した場合においてはドライブクラブである被告会社は運行供用者としての責を免れないと解するものである

そこで、借受人たる右訴外人ではなく被告田中が事故を起した本件の場合においても被告会社は右訴外人が事故を起した場合と同様、運行供用者としての責を負うべきかどうかについて検討するに、前記認定の通り右訴外人と被告田中とは他の六名と共に本件自動車と右訴外人の所有車に分乗し一緒にドライブに赴く途中被告田中が本件事故を起したのであるから、本件事故の際は未だ本件自動車は右訴外人の直接占有を離脱しておらず(被告田中が本件自動車を運転し右訴外人がその助手席に同乗していた場合と同様、被告田中は右訴外人の機関として占有しているにすぎないからいわゆる無断転貸には該当しない。)したがつて被告会社は本件自動車に対する間接占有を失つていないことは明らかであり、被告会社はやはり運行供用者としての責を免れないものと言うべきである。(成程、本件自動車の貸渡契約書には無断転貸のみならず第三者に運転させることをも禁じている約款が存することは前記認定の通りであるから右訴外人が被告田中をして本件自動車を運転させたことは右約款に違反していることは明らかであるけれども右約款は借受人たる右訴外人の被告会社に対する債務不履行による責任を肯定する根拠にはなりえても被告代理人の主張するようにこれと次元を異にする被告会社の運行供用者としての責任を否定する根拠とはなり得ないと言わねばならない。)

三、そこで原告が本件事故によつて蒙つた損害について判断する。

原告訴訟代理人は、本件事故当時原告が菓子製造販売業を営み年間金一〇〇万円を上廻る所得を得ていた旨主張しており、この内当時原告が菓子製造販売業を営んでいたことはすでに認定したところであるが、当時年間一、〇〇〇、〇〇〇円を上廻る所得があつたとの点についてはこれを認めるに足りる証拠はない。以下にその所以を詳説する。すなわち、

甲第一七号証(昭和四二年度損益計算書)同第一八号証、同第二〇号証(同年度営業帳簿)には右主張に添う記載がなされており、証人辛島貞子の第二回の証言中には右損益計算書及び右営業帳簿は当時会計を担当していた右証人(原告の妻)が作成した旨の供述がなされているけれども右証人が第一回の証言に際しては「会計は一切原告がしており事故当時の売上額ならびに純益額については何も知らない」旨供述していたことに徴すると右証人の第二回の証言の際なされた前記供述はたゞちに措信しがたく、他に右各書証が真正に成立したものであることを認めるに足りる証拠がない以上右各書証の記載はこれをもつて前記主張を認めるに由なきものと言うべきである。(仮に右証人が作成したものであるとしても右営業帳簿中消耗品費の項と雑費の項にはいずれも一月分の同一の支出が完全に重複して記載されており、給料の項についても右証人の第二回の証言中雇人に関する供述と全く符合しない記載がなされていること、及び成立に争いない甲第二一号証の二((県税事務所長の証明書))によると原告は県税事務所より昭和四二年度の所得を金三六三、九〇〇円と査定されていることが認められるところ右証人は第二回の証言において右金三六三、九〇〇円は前記損益計算書等に記載された同年度の利益金一、二〇二、一九五円より基礎控除その他諸控除を控除した金額であるから右損益計算書等の利益金の記載と右証明書の記載とは矛盾するものではない旨供述しているのであるが果してしからば原告は同年度の所得について当然所得税が課税される筈であるのに同年度の所得について原告が所得税を課されていないこと((弁論の全趣旨に照して明らかである))に徴しても右供述は到底信用できないと思料されること、などにかんがみるとき右帳簿等は本訴を維持する目的で後に作成された疑いを禁じえず原告の菓子製造販売業について当時会計を担当していた原告もしくは右証人により作成された正規のものとただちに認めることはできず、したがつてその記載は右証人の第二回の証言中前記主張に添う供述部分と共に直ちに措信できないものと考える。)

又右証人の第二回の証言により真正に成立したものと認められる甲第六号証(証明書)の記載も作成者の単なる推測にもとずくものであるから到底措信しえないし、右証人の第二回の証言により真正に成立したものと認められる甲第一九号証(売上帖)も原告自身にしかわからない符牒、記載が多いため、意味不明の部分が多く到底前記主張を認めるに由なく他に前記主張を認めるに足りる証拠はない。

而して〔証拠略〕によれば、右証人は昭和四三年四月末頃原告の妻である訴外辛島貞子より原告の財産整理を依頼されたので、右財産整理の際原告が本件事故により受傷するまで菓子製造販売業によりどの程度の収益をあげていたかを調査したこと及びその結果原告は本件事故当時少くとも年間金六〇〇、〇〇〇円を上廻る純益をあげていたことが判明したことをそれぞれ認めることができ成立に争いない甲第二一号証の一、二(県税事務所の証明書)中には右認定に反する記載がなされているけれども事業所得に関しては県税事務所の所得の査定が実際の所得額をかなり下廻る場合の多いことは当裁判所に顕著な事実であるから右書証の記載は直ちに右認定を覆えすに足りるものとはいえないし他に右認定に反する証拠はない。ところで原告の営んでいた右菓子製造販売業の規模及び従業員数ならびに原告の家庭の家族構成(以上の点は〔証拠略〕により窺うことができる。)及び小規模の個人企業における一般的な経営形態にかんがみるとき右菓子製造販売業は原告が一人だけで営んでいたものではなく実際は原告の妻訴外辛島貞子も原告と共に右事業にたずさわつており、右事業に対する原告と右訴外人の関与の割合は五対一程度であると推認するを相当とし右認定に反する証拠はない。

そうすると原告は本件事故当時右事業に従事することにより少くとも年間金五〇〇、〇〇〇円の所得を得ていたものと認められるところ、原告が本件事故により受けた傷害によつて今後も生業に従事しうる見込みが全くないことは前記認定の通りであり、その存在及び内容が当裁判所に顕著な事実である政府の「自動車損害賠償保障事業損害査定基準(昭和四二年一一月一日改訂)によると本件事故当時三九歳であつた原告が本件事故により負傷しなければ少くとも本件事故の時より二四年間は右菓子製造販売業を営むことができた筈である(原告の年令については成立に争いない甲第五号証により認めることができる。)から年間利益を右金五〇〇、〇〇〇円とし、就労可能年数を二四年とし年利五分の利率でホフマン方式にしたがい中間利息を控除し、本件事故の時点における原告の右得べかりし利益の現在価格を算出すると金七、七五〇、〇〇〇円となることは明らかである。

〔証拠略〕によれば、本件事故のため菓子製造販売業の廃業を余儀なくされた原告は多額の借財をかかえ、一切の資産を債権者達に投出す他ない状態に追い込まれていること、原告の妻訴外辛島貞子が煙草の販売業を営み、家の一部をバーに賃貸することにより現在合計金二万五、〇〇〇円程度の収入を得ているが二人の子供と治癒の見込みの全く立たない原告をかかえ今後の生活に強い不安を禁じえない状況にあることをそれぞれ認めることができ、(右各認定に反する証拠はない。)右各事実に前記認定の如き本件事故の態様、被告田中の過失の程度、原告の受けた傷害の程度等諸般の事情にかんがみる時本件事故により原告の蒙つた精神的な苦痛に対しては金一、〇〇〇、〇〇〇円の慰藉料が相当と考えられる。

四、そうすると原告は被告等に対し合計金八、七五〇、〇〇〇円の損害賠償請求権を有することになるが、被告田中が本件事故の被害弁償の一部としてすでに合計金五一五、七八六円(内金一四〇、〇六一円は治療費に充当されたので残額金三七五、七二五円が右各損害に充当)を原告に支払い、かつ原告が自動車損害賠償責任保険金一、七五〇、〇〇〇円を受領していること(右保険金の内金一〇〇、〇〇〇円が治療費に充当されたとの原告の主張についてはこれを認めるに足りる証拠はない。)は当事者間に争いがないので被告等は原告に対し更に金六、六二四、二七五円を支払うべき義務があると言うべく、したがつて金六、〇〇〇、〇〇〇円とこれに対する本件事故後である昭和四三年七月一日より完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求はすべて理由があることは明らかである。よつてこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九三条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 日比幹夫)

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